喉頭癌(こうとうがん)

喉頭がん

疫学

 ひとの癌の全体の約5%
年齢調整罹患率 男3.9 女0.4(1996年、人口10万対)
発症要因 喫煙の寄与危険度96%
重複癌の頻度 15年で約30%

症状

声門癌では早期に嗄声(声がれ)が生じるので早期発見が可能です。声門上癌では初期には咽喉頭の異常感がある程度ですが、声帯に進展すると嗄声が出現します。声門下癌では初期には無症状で、声帯に進展して嗄声が出現します。いずれの場合も癌が増大すると喉頭狭窄による呼吸困難が生じます。

診断と鑑別診断

病歴

年齢、性別、喫煙歴を参考にして、風邪をひいたわけではないのに、嗄声(声がれ)が続くときは精密検査が必要です。

喉頭鏡検査(間接喉頭鏡検査、喉頭内視鏡検査)

口の中に小さな鏡を入れたり、内視鏡をいれて観察する方法と鼻のなかを軽く麻酔し、ファイバースコープを鼻からいれて喉頭を観察します。

喉頭ストロボスコピー

声帯の基本振動数と同期したストロボ光を声帯にあてて、声帯の動きをスローモーションでみるようにして、声帯の粘膜の動きを観察し、癌の早期発見をします。

組織検査

上記の検査で癌が疑われる場合に診断の確定のために、疑わしい部分を採取し病理組織診断を行います。

鑑別診断

喉頭ポリープ、喉頭肉芽腫、声帯白板症(まれに癌化します)、喉頭の特殊炎症(喉頭結核など)

治療

放射線治療

T1 , T2 症例が適応になります。初期のT1症例では放射線単独で行いますが、T2 症例では、化学療法を併用することがあります。

レーザー治療

極めて初期の癌の場合にレーザーによって完全に摘出できますが、癌の深達度が深いときは、局所再発するので、放射線治療を併用します。

手術的治療

放射線治療や化学療法によって治療できない程度に進行した癌や、再発例に対して手術を行います。正常の声帯を残して、癌の部分だけ切除する喉頭部分切除術は、適応する症例が限られています。一方、喉頭の全摘出術は声帯をすべて摘出しますから、術後は、全く声がでなくなります。代用音声として電動式人工喉頭や食道発声があります。
くわしくは、下記ページを参考にしてください。

国立がん研究センターのホームページ

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上咽頭がん

症状

耳症状

1側(まれに両側)の耳閉塞感、耳鳴、難聴、滲出性中耳炎のため、長期にわたり、耳鼻科で通気療法をうけていることがあります。

鼻症状

腫瘍が増大すると、後鼻孔が閉塞し、鼻閉が生ます。腫瘍の壊死による鼻出血が出現します。

咽頭症状

まれに咽頭異物感

眼症状

外転神経麻痺による複視、さらに進行すると動眼神経麻痺による眼球運動障害

脳神経症状

外転神経麻痺、三叉神経麻痺、舌咽神経麻痺、迷走神経麻痺

頚部腫瘤

頚部リンパ節転移。初診時、すでに頚部に転移した症例が多くみられます。

診断、鑑別診断

上咽頭に病変が生じても、症状が乏しく、診断が遅くなりがちです。またこの癌は、他の頭頚部癌と異なり、若年者にもみられます。

上咽頭癌のT分類(UICC 1997)

  TX :原発腫瘍の評価が不可能
  T0 :原発腫瘍を認めない
  Tis :上皮内癌
  T1 :上咽頭に限局する腫瘍
  T2 :中咽頭、および/または鼻腔の軟部組織に進展する腫瘍
  T3 :骨組織、および/または副鼻腔に浸潤する腫瘍
  T4 :頭蓋内に進展する腫瘍、および/または脳神経、側頭下窩、
      下咽頭、眼窩に進展する腫瘍 

鑑別すべき疾患

 悪性リンパ腫、若年性鼻咽腔血管線維腫、頭蓋咽頭腫瘍、脊索腫、横紋筋肉腫など。

治療と予後

放射線治療

手術

初期治療として行われることは少ない、残存、再発腫瘍にたいして頭蓋底外科のアプローチで手術が行われます。

化学療法

頭頚部癌のなかで化学療法の効果が最も期待されます。

放射線単独の治療成績は5年生存率が約40%です。                     

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中咽頭がん

 軟口蓋から舌骨上縁(喉頭蓋谷底部)の間に発生した癌。
 解剖学的に前壁型(舌根部、喉頭蓋谷)、側壁型(口蓋扁桃、扁桃窩、口蓋弓)、後壁型、上壁型(軟口蓋下面、口蓋垂)にわけられます。

症状

 初期はほとんど無症状で腫瘍がある程度大きくなるか、頚部リンパ節転移をきたすまでは、発見されないことが多い。腫瘍が大きくなると、咽頭の異物感や耳への放散痛、さらには、腫瘍からの出血や開口障害、下位脳神経症状がみられることがあります。

診断

 視診、および触診を行い、組織診断のために組織採取します。
病理診断は圧倒的に扁平上皮癌が多く、まれに腺癌、腺様嚢胞癌、悪性リンパ腫、肉腫、悪性黒色腫があります。

治療

 放射線治療、化学療法、手術療法に大別されます。
中咽頭扁平上皮癌は比較的放射線の感受性が良好で、放射線治療単独でも腫瘍が消失することがありますが、腫瘍が大きくなった場合に化学療法も併用されます。しかしすべての癌がこの二つの治療方法で消失しないことがあります。最近は再建外科の進歩が著しく、以前は行われなかった手術も行うようになってきました。

予後

  早期癌(T1,T2)では放射線、化学療法の併用で50~80%の5年生存率です。しかし進行した癌  (T3,T4)では30%以下に低下してしまいます。

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下咽頭がん

 下咽頭は舌骨上縁から輪状軟骨下縁までの範囲です。癌の発生部位により3つの亜部位に分けられています。1)咽頭食道接合部型(輪状後部)つまり下咽頭の前壁と2)梨状陥凹型つまり下咽頭の側壁と3)咽頭後壁型です。

発症要因

 アルコール度の高い酒を常飲する地域におおく発生しているというデータがあります。          (宮原ら、1981)
梨状陥凹型は圧倒的に男性に多く、長年の飲酒と喫煙の関与が明らかになっています。
輪状後部型は女性に多く、鉄欠乏性貧血に基づく嚥下障害が関与しているといわれています。

症状

 癌の初期にはほとんど症状がなく、のどがつまった感じがある程度ですが、進行すると嚥下障害、嚥下痛、嗄声などがみられます。すでに頚部リンパ節に転移している症例が多く、早期発見が困難な疾患の一つです。

診断

 内視鏡検査、X線造影検査、CT検査、MRI検査などを行い、組織検査により確定診断します。口腔癌と同様に他の部位に重複する癌がみられることが多いといわれており、下部消化管の検索も必要です。本院での症例でも17例中7例(41%)に重複癌がみられました。

治療

 早期の癌に対して放射線治療、化学療法を行うことがありますが、ほとんどの症例が進行した時期に発見されることが多く手術治療が主体になります。
手術は咽頭喉頭食道摘出、両側頚部郭清術、食道再建術をおこないます。食道再建は皮膚による再建と胃管つりあげによるものと空腸による再建の場合があります。本院では耳鼻科による病変部位の切除と外科による胃管つりあげあるいは空腸切除と心臓血管外科による血管吻合術を3科合同で行っています。

予後

平成2年から13年の12年間に17例(内手術11例)を経験しました。
5年累積粗生存率は35%(Kaplan-Meire法による)でした。

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最終更新日:2018/08/16