皮膚がん

皮膚疾患領域での悪性腫瘍性疾患

 

皮膚科領域の悪性腫瘍は、皮膚を構築している細胞が多彩であるため、多数の疾患病名があります。その中で、代表的な疾患としては、以下のものがあります。

 

  1. 腫瘍性疾患 A.上皮性腫瘍
  • 1)日光角化症
  • 2)ボーエン病
  • 3)扁平上皮癌(有棘細胞癌)
  • 4)基底細胞上皮腫(癌)
  • 5)乳房外パジェット病
     
  1. 腫瘍性疾患 B.非上皮性腫瘍
  • 1)悪性黒色腫
  • 2)血管肉腫
     
  1. 腫瘍性疾患 C.リンパ腫
  • 1)皮膚T細胞リンパ腫(菌状息肉症)
  • 2)成人T細胞白血病/リンパ腫
  • 3)CD30陽性リンパ増殖症(リンパ腫様丘疹症も含む)
  • 4)NK細胞増殖症
     
  1. 腫瘍性疾患 D.その他
    ランゲルハンス細胞組織球症

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代表的な皮膚悪性腫瘍性疾患 

●日光角化症

  長期の日光紫外線暴露により、多くは70歳以上の高齢者において顔面、頭部、耳介、下口唇、手背などに好発する皮膚有棘細胞癌の表皮内癌です。放っておくと、将来皮膚有棘細胞癌に移行する可能性が高く、高齢者になればなるほど移行率が高くなります。病変の急激な隆起、増大、下床への浸潤、出血しやすくなるようであれば、かかりつけ医にご相談ください。

  ダーモスコープを用いた診察もしくは皮膚生検をすることで診断をし、液体窒素による凍結療法や、電気メスによる切除、外用療法としては、5%イミキモドクリーム(頭部・顔面の病変に保険適応)・5%5-FU軟膏外用を用い治療します。局所療法では効果が見込めない場合は、外科的切除をします。

 

●ボーエン病

  全身のどこもでも生じますが、躯幹、四肢に多発する表皮内癌です。湿疹などど思い込まれ、不適切な処置がされたり放置された場合は、有棘細胞癌に進展することあり、診断は重要です。多発する場合は、ヒ素との関連や内臓悪性腫瘍の合併も念頭に精査が必要です。原因は不明ですが、ヒトパピローマウイルスとの関連も報告されています。ダーモスコープを用いた視診と皮膚生検をし、確定診断をします。治療は、原則として手術です。5-FU軟膏など外用療法をすることもあります。

 

●扁平上皮癌(有棘細胞癌)

  表皮ケラチノサイト由来の悪性腫瘍ですが、皮膚付属器ケラチノサイト由来の悪性腫瘍を含むという考えもあります。皮膚悪性腫瘍の中で、基底細胞癌に続いて多い悪性腫瘍です。高齢者の顔面や手背などの日光露出部に多いです。角化を伴った紅色結節のみならず、丘疹、局面、潰瘍など臨床像は多彩です。悪臭を放つこともあります。2~5%の症例で転移するという報告もあります。皮膚生検をすることで確定診断をすることが大切です。触診で深部組織へ浸潤していることが疑われる場合は、原発部のCT,MRI検査などをすることもあります。治療は、臨床所見、病理学的所見、画像検査の結果より、TNM分類、病期や局所再発に関するリスク分類を決定し、日本皮膚科学会編集のガイドラインを参考に、年齢や状態を考慮し、治療方針を決めます。転移をしていない高リスクの患者さんに対して、外科的手術は第一選択です。また放射線療法も外科的な手術が不可能な場合は考慮することもあります。局所再発や転移の70~80%は術後2年以内に起こることから、術後も定期的な診察が必要です。

 

●基底細胞上皮癌

  最も発生頻度の高い皮膚悪性腫瘍です。高齢者に多く、顔面に多くできます。ほとんどが単発ですが、基底細胞母斑症候群や慢性放射線皮膚炎、脂腺母斑など基礎疾患があると比較的若年者にも生じ、多発します。基底細胞上皮癌は、緩徐に増殖し、放置すると骨を破壊するほど局所浸潤が強い傾向があるものの、転移はまれです。日本皮膚悪性腫瘍学会のガイドラインに沿って診療しています。

臨床とダーモスコープそして、皮膚生検で確定診断をします。治療の第一選択は外科的切除です。時に放射線療法を選択することもあります。術後2年以内に50%程度局所再発をすることがあり、1つの基底細胞癌を発症した患者さんの約20%が1年以内に、40%が5年以内に別の基底細胞上皮癌を発症するという報告もされており、術後も定期的な診察が必要です。

 

●乳房外パジェット病

  外陰部を中心として腋窩、肛門、臍窩といったアポクリン腺が存在する解剖学的な部位に生じる腺癌です。比較的進行が穏やかであることが多いですが、急速に腫瘤化し転移をきたすこともあります。診断では臨床所見が最も大切です。外陰部に不正形に紅斑がひろがり、色素沈着、色素脱出などを伴います、検査のためには、皮膚生検が必要です。必要に応じて、CT,皮膚超音波、PETなどの画像検査を行うとともにマッピングなどの術前検査を行います。手術ができるのであれば、手術となりますが、女性外陰部に生じた場合と肛門周囲に生じた場合等は問題となります。膣や子宮、尿道、肛門への浸潤が強い場合は、場合によっては、子宮全摘や尿路変更、人工肛門などを要することが必要となります。場合によっては、患者さんの年齢なども考慮し、放射線療法等をすることもあります。触診上リンパ節に転移が疑われる場合は、CT,超音波、PETなどを行います。リンパ節郭清を行うかどうかは、保険外ですがセンチネルリンパ節生検が試みられています。しかし、両側それぞれに複数個リンパ節転移がある場合など、手術による予後改善が見込めない時はあまり勧められていないのが現状です。進行期の治療に関して、一定のものはなく、エビデンスの確立した化学療法はまだなく、今後が期待されます。場合によっては、より専門性の高い病院へご紹介することもあります。術後の目安として、5年がひとつの目安になります。局所はもちろん、多臓器に腺癌が併発しないかどうかも注意をする必要があります。

●悪性黒色腫

 色素細胞(メラノサイト)由来の悪性腫瘍です。皮膚原発の場合、足底部にもっとも多く発症しますが、いずれの皮膚にも生じる可能性はあります。診断と治療は日本悪性腫瘍学会の皮膚悪性腫瘍取り扱い規約と皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインにしたがって進めます。

臨床的に本症の疑いが強い場合は、悪性黒色腫として検査を進めますが、可能性が低い場合は、全摘生検をし、病理学的な確定診断を求めることになります。転移の状況を把握するために、CT,MRI,PET検査を行います。遠隔転移がなく、明らかな所属リンパ節の存在が認められない時は、センチネルリンパ節生検(許可された施設のみ保険適応)と原発巣切除を行うことになります。一般的に治療方針は、その病期によって異なります。近年、悪性黒色腫に対する分子標的治療薬の開発が進んでいます。まず悪性黒色腫において、BRAF遺伝子変異が高頻度に報告され、経口BRAF阻害薬であるベムラフェニブが開発され、BRAFV600E変異を有する進行期悪性黒色腫においてその効果が報告されています。同様に経口BRAF阻害薬であるダブラフェニブも同様の効果をあげています。また、悪性黒色腫の免疫逃避に関係する因子に対するモノクローナル抗体の開発も進められ、イビリムマブやニボルマブが開発され使用されるようになっています。悪性黒色腫は皮膚科の中でも悪性度の高い腫瘍です。より専門性の高い施設で治療を受けていただくことも多いため、紹介させていただくこともあります。

●当院の主な皮膚悪性腫瘍患者数

疾患名  2015年度  2021年度
日光角化症 32 37
ボーエン病 8 11
有棘細胞癌 10 20
基底細胞癌 14 31
乳房外パジェット病 4 0
悪性黒色腫 3 1
メルケル細胞癌 0 0

有棘細胞癌や基底細胞上皮腫など一般の高齢者に多い皮膚悪性腫瘍が増加しています。
 

参考文献
皮膚疾患最新の治療 2015-2016 南光社

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最終更新日:2024/04/01