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食道がん
食道がんについて
日本人の食道がんの90%以上は、扁平上皮癌です。 欧米では胃腺上皮が下部食道にのびそこから発生する腺癌が半数以上です。その他、未分化細胞癌、癌肉腫、悪性黒色腫、類基底細胞癌などがあります。
がんの進行
食道の粘膜から発生し癌は、食道の外まで広がっていき気管・気管支や肺、大動脈、心臓など重要な臓器へと広がります。 また癌はリンパ液や血液の流れに入り込んで転移します。腹部や首のリンパ節に転移することがよくあります。血液の流れに入り込んだ癌は、肝臓、肺、骨などに転移します。
患者
食道がんは40歳代後半以降かかりやすくなり平均60歳代です。男性が女性の5倍以上かかりやすいです。
発生要因
喫煙と飲酒とも多い人はとくに食道がんになりやすくなります。
また、熱いものを飲んだり食べたりする食習慣もリスク要因といわれています。近年、欧米で急増している腺癌については、胃・食道逆流症に加えて、肥満でリスクが高くなるとされています。
食道がんにかかる方は咽頭・喉頭がんにもかかりやすいことがわかっています。
症状
無症状
無症状で発見された食道がんは早期のがんであることが多く、最も治る確率が高いがんです。
食道がしみる感じ
食物がつかえる感じ
癌が大きくなるとと食道の内側が狭くなり、食べ物がつかえるようになります。さらに進行すると食道を塞いで水も通らなくなり、唾液も飲み込めずにもどすようになります。
体重減少
胸痛・背部痛
咳
食道がんがかなり進行して気管、気管支、肺を侵すと、飲食するとむせるような咳が出ます。
声のかすれ
食道の近くにある声をだす神経ががんで侵されると声がかすれます。
診断
食道がんは、一般にバリウムを用いた食道造影検査と内視鏡検査で見つかります。その他、がんの広がり具合を見るためにCT、MRI検査、内視鏡超音波検査、超音波検査、PET検査、血液検査などを行います。
がんの進行程度を診断しなければ、治療法を選択できません。
食道造影検査(レントゲン検査)
内視鏡検査
たとえレントゲン検査で異常が認められなくとも内視鏡検査で発見されることもあります。
CT・MRI検査
CT・MRIは身体の内部を輪切りにしたように見ることができる検査です。
癌と周囲臓器との関係 リンパ節転移の存在 さらに肺、肝臓などの転移の有無を診断し進行度を判定するために最も重要な検査です。
超音波内視鏡検査
超音波内視鏡は、外見上は内視鏡と変わりないのですが、先端についた超音波装置を用いて、食道がんがどのくらい深く進展しているか、調べることができます。 内視鏡治療などの治療ができるかどうかの決定に非常に有用です。
超音波検査
腹部では肝臓への転移や腹部リンパ節転移の有無などを検索し、頸部では頸部リンパ節転移を検索します。
PET検査
PET検査は、全身の悪性腫瘍細胞を検出する検査です。食道癌は明るく光って映るため 進行度の診断で有効です。
血液検査(腫瘍マーカー)
血液検査では腫瘍マーカーで進行度を判断します。食道の扁平上皮癌ではSCC(扁平上皮癌関連抗原)とCEA(癌胎児性抗原)です。食道の腺癌ではCEA(癌胎児性抗原)です。早期のがんの診断には使えるものはありません。
進行度(ステージ)
進行度(ステージ)によって治療法を決めたり、治る可能性を推定したりします。
深達度、リンパ節転移、他の臓器の転移の程度にしたがって病期を決定します。
0期からⅣ期まで分類します。
0期Ⅰ期が早期癌で Ⅳ期は高度進行癌です。
治療
各種検査の結果を総合的に評価して、がんの進展度と全身状態から治療法を決めます。食道がんの治療には内視鏡治療、外科手術、放射線治療、抗がん剤の治療が行われます。進行したがんでは、外科手術、放射線療法、化学療法を組み合わせて治療します。
外科療法
手術は、食道がんに対する現在最も一般的な治療法です。手術ではがんを含めた食道を切除します。同時にリンパ節を含む周囲の組織を切除します(リンパ節郭清)。食道を切除した後には食物の通る新しい道を再建します。食道は頸部、胸部、腹部にわたっていて、それぞれの部位によりがんの進行の状況が異なっているので、がんの発生部位によって選択される手術術式が異なります。
頸部食道がん
癌が小さく頸部の食道にとどまり、周囲への癌の広がりもない場合は、のどと胸の間の頸部食道のみを切除します。切除した食道の代わりに小腸の一部(約10CM)を移植して再建します。なお、移植腸管は血管を頸部の血管とつなぎ合わせることが必要です。のどの近くまで広がった癌では頸部食道とともに喉頭を切除します。そして気管の入口を頸部の中央につくります。喉頭を切除するため声が出せなくなります。
胸部食道がん
原則的に胸部食道を全部切除しリンパ節を切除します。食道を切除するために、右側の胸を切開します。最近では胸腔鏡(カメラ)を使って開胸せずに食道を切除する方法も行っています。食道を切除した後、胃を管状にし引き上げて残っている食道とつなぎ再建します。胃が使えないときには大腸または小腸を使います。胃や大腸・小腸を引き上げる経路により、前胸部の皮膚の下を通す方法・胸骨の下で心臓の前を通す方法・もとの食道のあった心臓の後ろを通す方法の3とおりがあり、それぞれの病態により選択されます。
胸部食道癌の手術・・体のきずと内部の切除範囲
年 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 総計 |
開胸 食道 切除術 |
4 | 9 | 3 | 12 | 10 | 14 | 10 | 17 | 10 | 15 | 14 | 9 | 10 | 146 |
鏡視下食道 切除術 |
0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 4 | 5 | 5 | 2 | 2 | 4 | 10 | 4 | 29 |
計 | 4 | 9 | 3 | 12 | 12 | 18 | 15 | 22 | 12 | 17 | 18 | 19 | 14 | 175 |
当センターでの手術症例数
腹部食道がん
腹部食道の癌に対しては、左側を開胸して食道の下部と胃の噴門部を切除します。
バイパス手術
癌のある食道をそのまま残して食物の経路を別につくる手術です。胃を頸部まで引き上げ、頸部で頸部食道とつなぐ方法です。この手術は根治をあきらめ、一時的にでも食べられるようにする手術です。
外科療法の合併症
手術に続いて発生する余病(合併症)は肺炎、縫合不全(つなぎめのほころび)、肝・腎・心障害、嚥下困難(反回神経麻痺)です。これらの合併症が死につながる率、すなわち手術死亡率(手術後1ヵ月以内に死亡する割合)は2~3%です。これらの発生率は、手術前に他の臓器に障害をもっている人では高くなります。
放射線療法
放射線療法は、食道の機能や形態を温存することをめざした治療です。放射線を当ててがん細胞を殺します。
放射線療法の方法
放射線療法は、毎日少しずつ照射し1週間に5日約5-7週間続けます。 最近、放射線療法と抗がん剤治療を同時に行うほうが放射線療法だけを行うより効果があることがわかってきました。放射線療法に抗がん剤治療を加えることで手術をしなくても治る患者さんが増えてきました。
治すことをめざして治療をする場合は、放射線療法と抗がん剤治療を同時に行うことが勧められます。
放射線照射範囲
放射線療法の副作用
放射線療法の副作用は、主には放射線が照射されている部位に起こります。また副作用には治療期間中のものと、治療が終了してから数ヵ月~数年後に起こりうる副作用があります。
治療期間中に起こる副作用は、嚥下時の違和感・疼痛・咽頭の乾き・声のかすれ・嘔気・嘔吐・食欲低下・照射部の皮膚には日焼けに似た症状が出てきます。副作用の程度には個人差があり、ほとんど副作用の出ない人も強めに副作用が出る人もいます。症状が強い場合は症状を和らげる治療をしますが、時期がくれば自然に回復します。
治療が終了してから数ヶ月から数年たって、放射線が心臓や肺にあったためこれらの臓器に影響が出ることがあります。
化学療法(抗がん剤治療)
抗がん剤は血液の流れに乗って手術では切りとれないところや放射線を当てられないところにも、全身に行き渡ります。 単独で行われる場合と、放射線療法や外科療法との併用で行われる場合とがあります。
化学療法の方法
抗がん剤として、フルオロウラシルとシスプラチンの併用療法が最も有効とされています。抗がん剤は点滴の中に混ぜて5日間続けて注射します。このために入院が必要です。これが1回分の治療で、3週間ほどの休みをおいてもう1回行い、効果があればさらに繰り返します。効果がない場合は別の抗がん剤に切り替えます。
抗がん剤の副作用
副作用は個人差がありますが、薬剤使用中は嘔気、嘔吐、食欲不振はほとんどの人に認められます。しかし、薬剤使用終了後、2~3日で回復の兆しがみられます。また血液、腎機能などのチェックが必要です。2-3週後に、白血球、血小板が減少することがあり、その他の細菌感染を受けないように注意が必要です。
化学放射線療法(抗がん剤と放射線治療)
根治的化学放射線療法
化学放射線により完治を目指す治療を行います。手術を望まない人、合併症などで手術のリスクの高い人などにおこなわれます。がんが気管や大動脈などに浸潤していて手術できない場合にも適応となります。病変の広がり具合により治療成績に差はあります。
化学放射線療法の副作用
化学療法と放射線療法を併用することで、効果は上昇しますが、副作用も増加します。食欲不振、口内炎、食道炎や白血球減少などはとくに強く出ます。
内視鏡的粘膜切除術
食道壁の、粘膜層にとどまりリンパ節転移のない食道がんを内視鏡で見ながら食道の内側から切り取る治療法です。
治療後は食道粘膜が再生してきますので、治療前と同様の生活ができます。ただし、広範囲に切り取った場合には狭くなる場合があります。
切除した組織を顕微鏡で詳細に検索した結果、もし治療前診断と異なりがんが予想より進行していた場合には、がん細胞が食道の外に広がっている可能性があるため、追加の外科手術や放射線治療、化学放射線治療が必要になります。
食道内挿管法
癌による狭窄のために食事摂取が困難な場合に、シリコンや金属の網でできたパイプ状のものを食道の中に留置して食物が通過できるようにする方法です。
治療後の通院
癌の進行度が進んでいて再発の危険度が高い方ほど通院する回数が多くなります。時間がたつほど再発の危険度は減り、3~6ヵ月に1回程度の診察となります。
再発
食道がんの再発のほとんどはリンパ節と肺、肝臓、骨への転移です。
再発の場合には、再発した部位、症状、初回治療法およびその反応などを考慮して治療法を選択します。手術をすることはほとんどありません。放射線治療か抗がん剤治療を行います。
その他、モルヒネなどの痛み止めを用いる症状緩和のための治療が選択されます。
どのような治療をしても、再発した癌が治る可能性は非常に少ないと考えねばなりません。再発した場合には、およそ半年ぐらいの余命と考えられます。放射線治療や化学療法で1年以上生きられることもありますが、癌の進行が早ければ3ヵ月以内のこともあります。
生存率
早期のがんの治療成績は良好です。粘膜にとどまるがんでは内視鏡的粘膜切除術で切除できない場合でも、手術で切除できれば5年生存率はほぼ100%です。がんが粘膜下層まで広がってもリンパ節転移を起こしていなければ、手術で80%が治ります。
日本食道疾患研究会の「全国食道がん登録調査報告」では、手術で取りきれた場合の5年生存率は、ほぼ54%に達しました。
5年生存率は、進行度I期:約70%、進行度II期:約50%、進行度III期:30%、進行度IV期:15%です。
(当科医師が関連した手術後生存期間)
最終更新日:2018/11/08