〒500-8717 岐阜県岐阜市野一色4-6-1 TEL.:058-246-1111
COPYRIGHT(C) GIFU PREFECTURAL GENERAL MEDICAL CENTER. ALL RIGHTS RESERVED.
肺癌(はいがん)
肺がんについて
肺の構造
肺は、右肺と左肺があり、右肺は上葉、中葉、下葉、左肺は上葉と下葉に分かれています。空気は口と鼻から咽頭・喉頭を経て気管を通り、左右の気管支をへて更に枝わかれした部分を通り、酸素と二酸化炭素を交換する肺胞へ達します。
発生
肺がんは、肺の正常細胞の中にある「遺伝子」に傷(変異)がついて生じます。遺伝子の変異は比較的長い年月をかけて多段階に起こり、変異が蓄積するにつれて細胞は次第に悪性化し、無秩序に増殖するようになります。癌細胞は、初めは肺の中にとどまっていますが、進行すると、他の臓器へも転移するようになります。肺がんになりやすいかどうかは、各個人で異なります。環境から来る様々な発がん物質(環境要因)と、私たちが生まれながらに持つDNAの個人差(遺伝的要因)が大きく影響すると考えられています。環境要因の中では、タバコが最大の要因です。
頻度と疫学
わが国の肺がん死亡率は、1960年以降、男女とも一貫して増加しており、男性では1993年(平成5年)に胃がんを抜いて死亡率が第一位に、1998年には男女合わせても第一位となりました。
厚生労働省人口動態統計によると、2003年における肺がん死亡数は、男性で41,701人、女性で15,086人となり、がん死亡の約2割を占めています。15~20年後には年間10万人以上の死亡が予測されています。
また、肺がん症例の60%が65歳以上の高齢者であり、診断時に約70%の症例が臨床病期Ⅲ、Ⅳ期の進行癌であるという点で、肺がんは予後の悪い難治性癌とされています。
組織分類
肺がんは、非小細胞肺癌と小細胞肺癌の2つの型に大きく分類されます。
非小細胞肺癌は、さらに腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌などに分類されます。腺癌は、わが国で最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺癌の63%を占めています。腺癌は他の型に比べ臨床像は多彩で、進行の速いものから遅いものまでいろいろあります。次に多い扁平上皮癌は、男性の肺がんの32%、女性の肺がんの14%を占めています。大細胞癌は、大きな細胞からなる癌で、さまざまな性質をもつものがあると考えられ、小細胞がんと似た性質をもったものも知らされています。
小細胞肺癌は、肺がんの約15~20%を占め、増殖が速く、他の臓器に転移しやすい悪性度の高い癌です。しかし、他の組織型の肺癌と異なり、抗癌剤や放射線治療がよく効く癌です。
病因と予防
肺がんにかかった人について、何が原因だったのかをさかのぼって特定することができません。しかし集団を対象にした研究によって、どのような要因が肺がんと関係があるのかということを明らかにすることができます。
肺がんと最も関係の深い要因は喫煙です。喫煙者が、タバコを吸っていない人に比べて、どれだけ肺がんにかかりやすいかを計算した研究によると、男性では4.5倍、女性では4.2倍かかりやすいとなっています。また、肺がん全体の中で喫煙が原因と考えられる割合でみると、男性の肺がんの68%、女性の肺がんの18%は喫煙が原因と考えられます。
喫煙以外に肺がんと関連する要因としては、環境汚染、職業による暴露、食習慣が挙げられ、例としてはアルミニウムやヒ素、アスベストなどがあります。食習慣では、飲料水に含まれるヒ素やベータカロテンサプリメントが肺がんのリスクを上げるとされています。
反対に、肺がんのリスクを下げる可能性がある要因として、果物・食物に含まれるカロテノイドなどが挙げられています。ただし、防御要因は喫煙の影響よりはるかに小さいと考えられます。
肺がん検診
一般的には胸のレントゲン写真と喀痰細胞診により行われております。最近は、ヘリカルCTと呼ばれる肺のX線断層検査が行われるようになり、より小さな肺がんも発見されるようになっています。
症状
一般的には、なかなか治りにくい咳や胸痛、呼吸時のぜーぜー音、息切れ、血痰、声のかれ、顔や首のむくみなどがあります。
肺の中心部にできる肺門型肺癌は、早期から咳、痰、血痰などの症状が出現しやすいものです。肺の周辺部にできる肺野型肺癌は、癌が小さいうちは症状が出にくい傾向があり、検診や人間ドック、他の病気で医療機関にかかっている時に見つかることがあります。
ときに転移病巣の症状、例えば脳転移による頭痛、骨転移による腰痛が最初の症状である場合もあります。また、肺癌が胸壁を侵したり、胸水がたまったりするための胸痛のこともあります。その他、肩こり、肩痛、背中の上部痛、肩から上腕にかけての痛みもまれにあります。他の癌と同様に肺がんでも、易疲労感、食欲不振、体重減少がおこります。
診断
最初に胸のレントゲン検査をします。
1)胸部正面、側面
2)胸部CT
3)胸部MRI(必要時)
次に癌かどうか、あるいは組織分類のため、以下の方法で肺から細胞を集めます。
1)喀痰細胞診検査
2)気管支ファイバー検査
3)CTガイド下肺針生検
4)その他:穿刺吸引細胞診、リンパ節生検、胸膜生検など
これらの方法を用いても診断が困難な場合、外科的に組織を採取します。
1)胸腔鏡検査
2)開胸肺生検
3)その他:縦隔鏡検査
肺がんと診断されると、転移や他の癌がないかの目的で全身の検査が必要になります。 頭部MRI、FDG-PET検査などが、癌の診断および病気の拡がりの診断に用いられてきています。
病期(ステージ)
癌細胞の拡がりによって病気の進行の程度を潜伏癌、0期、I(A,B)期、II(A,B)期、III(A,B)期、IV期に分類します。小細胞肺癌では、限局型と進展型に分ける方法も使われます。
治療
治療法として主に外科療法、放射線療法、抗癌剤による化学治療があります。
外科療法
非小細胞肺癌は、病期分類のI期からIIIA期までが適応です。小細胞肺癌は、I期の早期例にのみ手術を行いますが、術後に化学療法を行う必要があります。
手術方法としては、根治性を第一に考えており、肺葉切除(1葉、2葉あるいは全摘)およびリンパ節郭清を標準術式としています。高齢者や心臓や肺の機能障害を有する症例では、根治術を行うことができずに縮小手術や放射線療法を行う場合もあります。
当院の外科治療には以下の特色があります。
①「根治性」と「呼吸機能温存」の両立をめざした縮小手術:
肺癌の手術は正常の肺組織も切除しますので、手術後にほとんどの方は呼吸機能が低下してしまいます。当科では術前の画像を詳細に検討して、手術後の息苦しさがなるべく少ない縮小手術(区域切除や部分切除)を積極的に行うように心がけています。
②胸腔鏡手術(VATS:バッツ):
胸腔鏡などの器具を積極的に利用することで身体に負担の少ない手術を行っています。
2009年に執刀したほとんどの肺癌手術は胸腔鏡を使用して行い、手術の創を小さくすることが可能でした。
しかしながらわれわれは安全性と根治性が最重要と考えています。安全を担保できない場合や、根治性が損なわれると考えた場合には、創を延長することや拡大切除をすることを躊躇わないようにしております。
癌の進行の程度によっては抗癌剤治療・放射線治療を組み合わせて行うことにより切除可能になる場合もあり、呼吸器内科および放射線治療科との連携が重要になってきます。
また局所進行肺癌(大動脈や周囲臓器へ拡がってしまっている進行してしまった肺癌)の方に対しても、心臓血管外科とのコラボレーションにより治療可能になる場合があります。
放射線療法
X線や他の高エネルギーの放射線を使って癌細胞を殺すものです。対象となるのは、癌が進行しているケース、合併症や高齢などの理由で切除不能と判断された非小細胞肺がんの患者さん、片側の胸郭に限局している小細胞肺がんの患者さんです。また、脳や骨への転移による症状の緩和にも有効な治療法です。
化学療法
術前・術後化学療法
術前にⅢA期と診断された患者さんには、術前に抗がん剤治療を行ったほうが手術だけの治療より治療結果が良かったとの報告がありますが、まだ標準的治療としては確立していません。
術後化学療法とは、手術後にリンパ節やほかの臓器、あるいは血液の中に残っているかもしれない癌細胞を治療する目的で、抗がん剤の追加治療を行います。経口投与と静脈内投与があります。
手術適応外の進行がん
小細胞肺がんは病巣の広がりから、限局型と進展型に分類されています。限局型に対しては放射線療法と化学療法を同時に行います。進展型に対しては、化学療法単独治療が選択されます。
非小細胞肺がんでは、手術不能局所進行がんに対し化学療法と胸部放射線療法の併用を行います。それ以外の進行がんに対し2剤併用化学療法が標準的治療とされています。また、癌の発生、増殖、転移にかかわる様々な分子(タンパク質や遺伝子)の働きを抑えることによって、癌細胞の癌としての性質を抑えようとする分子標的治療薬があります。EGFR遺伝子変異を有する肺がんに効果が見られます。
その他
陽子線・重粒子線治療、光線力学的治療、ラジオ波熱凝固療法、ステント治療レーザー治療、免疫療法など
再発と転移
癌が再発、増悪した場合は、再発した部位、症状、初回治療法およびその反応などを考慮して治療法を選択します。脳や骨の転移による症状緩和には、脳や骨への放射線療法がよく用いられます。化学療法が症状をコントロールするのに役立つ場合もあります。その他、ホルモン剤、モルヒネなどの痛み止めを用いる緩和治療が選択されます。
副作用と対策
癌に対する治療は、癌細胞のみならず、同時に正常な細胞も障害を受けることは避けられませんので、副作用・後遺症を伴います。肺癌も同様であり、できるだけ副作用を軽減すべく努力しますが、治療に伴い種々の副作用があらわれることがあります。
外科療法
肺を切除した結果、息切れや、手術後半年~1年間の創部痛を伴うことがあります。そのため手術後はライフスタイルの変更や在宅酸素療法を導入することもあります。
放射線療法
主な副作用は、放射線による一種の火傷(やけど)です。放射線治療中に出現する食道炎、皮膚炎と、放射線治療終了後しばらくしてから出現する肺炎があります。
化学療法
用いる抗癌剤の種類によって異なり、また個人差もありますが、治療中の主な副作用は、貧血、白血球減少による感染、血小板減少による出血傾向、吐き気・嘔吐、食欲不振、下痢、末梢神経障害、肝機能障害、腎障害、脱毛、疲労感などです。その他、予期せぬ副作用も認められることがあります。
分子標的薬剤では、皮膚障害、胃腸障害、肝障害、重篤な副作用として急性肺障害、間質性肺炎が挙げられます。
転移性肺がん
肺を含む種々の臓器に発生した癌が、肺に転移したものです。化学療法の感受性が低く、しかも原発巣がコントロールされており肺以外に遠隔転移がない場合には手術(部分切除、肺葉切除)を行っています。内視鏡下手術の良い適応です。大腸癌や腎癌などでは、良好な成績が得られています。
参考文献
国立がんセンターがん対策情報センター がん情報サービス
厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計」2003
西條 長宏、加藤 治文 インフォームドコンセントのための図説シリーズ 肺癌 改訂第3版 医薬ジャーナル社
最終更新日:2018/08/16