岐阜県総合医療センターでの放射線治療の紹介 その1 ~SGRT~

体表面画像誘導放射線治療 SGRT(Surface-image Guide Radiation Therapy)

 岐阜県内では初めて導入する機構ですが、患者様に優しい放射線治療を実現し、高齢のがん患者様にも負担なく高精度の放射線治療を提供するにあたってのとても大切な機能になります。

従来の放射線治療では

 照準とするポイントの皮膚にマークをつけて、その位置に照合して照射する方法をとっていました。しかし、この方法では照射中の体動を検知することも、修正することも不可能でした。
 患者様にとってはマークを消せないため、皮膚を清潔に保つことも困難で、保湿を行うことも容易ではありませんでした。

 

岐阜県総合医療センターが目指す新たな放射線治療

 CTを行った際に取得した体表面画像に合わせ込むことで、皮膚マークによる点合わせから、面合わせに発展させることで、正確性を向上させます(位置合わせ)。位置決めの皮膚マークが廃止できる上に、条件を満たした着衣であれば身につけたままでの位置合わせや照射が可能となります。着衣をつけての照射については現時点では検討中で、実施に向けての作業が進行中です。

 照射中も体表面の画像は常に取得して、観察していますので、予期せぬ体動が生じて位置がズレた場合には直ちに照射は休止します。体表面の位置が設定した位置に戻った場合や、改めて修正した上で照射を再開します。(リアルタイム監視)

 

 

SRGTを実現するシステム

 C-Rad(アメリカ合衆国)社が開発したシステムで、治療計画用CT(CTシミュレータ)室と,放射線治療室に設置されています。 各部屋で取得された体表面画像や呼吸による動きを波形として取得しますが、これらのデータは各装置で共有することが可能です。

CTシミュレータ室:Sentinel-4D

第1放射線治療室(RadixactX9):VitalHold

第2放射線治療室:Catalyst+HD

Catalyst+HDとVitalHoldは同じ製品ですが、販売名が異なっているのみです。

左乳癌における深呼気息止め照射(DIBH)の円滑化

  旧リニアックでは胸壁の動きモニターするRPMシステムでDIBHを行ってきましたが、センサーを胸壁上にセットして行う方式を取ってきました。Catalystは照射室に常設されており、普通に照射を施行する過程で、照射中のモニターが実施できるために、施行に際しての煩雑さがなくなり、円滑な運用が可能になりました。

4D-CTを用いた高精度放射線治療(呼吸停止を必要としない)

 4D-CT(4次元CT)とは、心臓や肺などの動く臓器や呼吸によって動く肺の中の腫瘍の3次元構造を画像化し、その時間変化を見るものです。当院ではこのようなCTの動画像とSentinal-4Dで取得できる体表面の動画像から体表の動きを波として分析し、CTの同画像と体表の動きを表した波を同期させ、その波を10相に分解して、CTの動画像を10相に分けた画像として描画ができるシステムになっています。

 呼吸による位置変動の少ない相の画像から腫瘍や臓器の輪郭を抽出することによって、安静呼吸による動画像から、呼吸停止によって得られた精細な画像に近似した画像が得られることになります。10相に分類した画像と呼吸の動きを表した波は同期していますので、抽出した画像と波形の相のみで照射をし、画像を抽出していない相では照射を休止する方法を取ることで、現在の肺癌の定位放射線治療では呼吸停止の状態で照射を行うことが一般的となっていますが、安静呼吸の状態で呼吸停止に近いレベルでの照射が実現できることになります。

 この方法は定位放射線治療のみならず、強度変調放射線治療でも利用可能な方法となり、呼吸停止の難しい高齢のがん患者様に対しても、高精度の放射線治療が実現できることになります。

 波の高い部分(吸気の相)を除外して、波の低い部分(呼気の相)から中間の相のみを抽出することで、呼吸による位置移動の影響は最小限度にできます。 この波形データはSentinei-4DとCatalyst(VitalHold)で共有できるので、治療計画時の波形データが、そのまま照射の際にも使用できます。

オープンタイプのマスクシステムによる脳腫瘍の照射

 従来のマスクシステムでは顔面を完全に覆うマスクシステムでした。顔面を覆い尽く すためにかなり圧迫感の強い固定方法でした。また閉所恐怖症の患者様には使うこと ができませんでした。

 オープンタイプのマスクシステムにすることで、上記の問題点は解決できました。 Catalystと併用することで固定制度の管理も厳密に行うことができ、患者様に優しい、 放射線治療が実現できるようになりました。2024年10月から運用開始予定です。

SGRTシステムによって新しく実現できる機能

マーカーレスでの位置合わせ(体表面にマーカーをつけません)

照射中のモニタリング(体動によるズレを随時モニタします)

着衣のままでの放射線治療

左乳癌の深吸気息止め照射の円滑化

安静呼吸での高精度放射線治療の実現

オープンタイプでのマスクによる固定での頭部の放射線治療(高精度含む)

2025年4月には全面的な運用が可能となります

 

(2024年8月30日更新)

 

最終更新日:2024/09/03