胃がん

胃がんとはどんな病気?

 胃は上腹部にある袋状の臓器で、摂取した食べ物を消化する働きを担っています。胃の内側は粘膜で覆われていますが、粘膜の細胞は常に分裂を繰り返し新しい細胞と入れ替わっています。その過程で細胞の遺伝子に傷がつき、異常細胞が出現することがありますが、通常は免疫細胞などの働きによって除去され、何事もなかったように過ぎていきます。しかし、精巧な免疫監視機構を免れた異常細胞は、浸潤、転移などの強い増殖性を持つようになり、胃がんが発生します。胃がんの発生には、慢性胃炎、ピロリ菌、たばこ、高塩分食などに加え、遺伝的素因が関与しています。

 胃がんは長い間、日本のがん種別死因1位でしたが、徐々に減少傾向にあり1995年以降は肺がんについで2位となりました。毎年5万人弱の人が胃がんで亡くなっています。

 内視鏡検査やX線検査の診断レベルが向上して、早期胃がんがたくさん見つかるようになったことと、安全にまた確実に手術ができるようになり、治療成績は非常に向上しました。早期胃がんの治療成績は極めて良好ですが、進行胃がんの成績はいまだ充分ではありません、ですから早期のうちに胃がんを発見することが最も重要と思われます。

 早期胃がんはほとんど症状がありませんので、年に1回はバリウム検査や内視鏡検査による検診を受けることをお勧めします。

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症状

 早期胃がんでは、まったく無症状で、検診などで偶然発見される場合や、病変内部にしばしば消化性潰瘍を伴い、これによる腹痛や不快感により内視鏡検査をうけて発見させる場合が多くあります。

 進行胃がんでも無症状のことが多いですが、大きな潰瘍が形成されると心窩部痛が生じたり、胃の出口付近にできると、食べ物の通過障害により食後の不快感、嘔気、嘔吐などの症状がでることがあります。また、がんからの出血により便が黒くなったり、貧血で顔が青ざめたり、だるさを自覚する場合があります。これらは胃がんだけに特徴的な症状ではありませんが、体調不良が継続する場合には、医療機関を受診し、内視鏡検査をうけられた方が良いでしょう。

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診断

 胃の検査法には上部消化管造影検査(胃透視)と内視鏡検査(胃カメラ)があります。上部消化管造影検査はバリウムを溶かした造影剤を飲んで行うレントゲン検査で、空気と造影剤のコントラストにより胃の形や粘膜表面を描き出すことで、病変の有無を判定します。内視鏡検査は細い管状の内視鏡(カメラ)を口から挿入し、胃内をテレビモニターで映し出します。内視鏡検査では、病変の色調の変化までわかるため、小さな、平坦な病変をもとらえることができます。

 がんが疑われる場合には、生検といって病変部の組織片を一部採取して、顕微鏡検査を行うことにより正確な診断をつけることができます。内視鏡検査は病変を直接観察でき、生検により診断まで行えるため、胃がんの診断には最も重要な検査法といえます。

 がんであることが診断されると、がんがどの程度進行しているかを調べる必要があります。がんの広がり、リンパ節転移の有無、他の臓器への転移などを調べるために、胸部と腹部のCT検査、腹部超音波検査などを行います。CT検査は、X線とコンピューターを用いて、体の断面や立体像を描せる検査法で、病巣の深さ、離れた臓器への転移、リンパ節転移を評価するうえで非常に有用です。

 胃の壁のどの深さまで進んでいるかを精密に調べるために、超音波内視鏡検査を行う場合もあります。

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胃がんの進行度(病期、ステージ)

 胃がんがどこまで進んでいるかは進行度(病期、ステージ)で表されますが、これはがんの深さとリンパ節転移、遠隔転移によって決定されます。がんの深さはTで表され、T1(胃の粘膜または粘膜下層に限局している)、T2(胃の筋層までに限局している)、T3(筋層を超えているが、外表面にでていない)、T4a(胃の表面に露出している。)、T4b(他の臓器にがんが続いている)に分類されます。リンパ節転移はNで表わされ、N0(リンパ節転移なし)、N1(リンパ節転移1-2個)、N2(リンパ節転移3-6個)、N3(リンパ節転移7個以上)に分類されます。他の臓器への転移はM1と表わされ、これらの因子を組み合わせて病期(ステージ)が決まります。

 胃がんの進行度(ⅠA、ⅠB、ⅡA,ⅡB,ⅢA,ⅢB,Ⅳ)を判定することは、適切な治療法を選択するために必要ですし、またどのぐらいの頻度で再発するかを予測する上でとても重要です。

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治療

 通常は消化器内科や外科において、胃がんであることと進行程度(病期)が診断され、これに基づいて適切な治療法が決定されます。胃がんの基本的な治療法は手術ですが、進行程度によっては、抗がん剤治療を主体に行った方が良い場合や手術の前に抗がん剤治療を行う場合があります。また、早期がんの一部には内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)により完治するものがあります。

内視鏡を使った治療

  リンパ節転移の可能性がないと考えられる早期胃がんに対して、内視鏡を用いて病変を切除する治療法です。内視鏡的粘膜切除術(EMR)は病変の粘膜下に生理食塩水などを注入して病変粘膜を浮き上がらせ、ループ状のスネアを用いて粘膜を高周波で焼き切る方法です。一方、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、病変粘膜を生理食塩水などで浮き上がらせて、ITナイフで粘膜下層を剥離しながら、粘膜を切除する方法です。開腹することなく、静脈麻酔にて30分から2時間ほどで終了します。

 

手術療法

普通の手術(定型手術)

 胃がん手術の原則は病変を正常組織も含めて切除するとともに、周囲のリンパ節を取り除くこと(リンパ節郭清)です。多くの場合、病変は胃の出口(幽門)に近い部位にできやすいので、胃の2/3以上の範囲の切除(幽門側胃切除)と第2群までのリンパ節(胃に接している1群リンパ節と、胃に流れ込むに沿って存在する2群リンパ節)を取り除く「D2郭清」が最も多く行われます。これが定型手術と言われているものです。

 病変が胃の入り口(噴門)に近いところにある場合や、病変が胃の上のまで広がっている場合には、胃をすべてとる方法(胃全摘)を行います。噴門に近い早期がんに対しては、入り口(噴門)側1/2を切除する方法もあります。

 胃の切除後は残った胃や食道と小腸や十二指腸とつなぎ合わせて、食べ物が通るようにします(再建術)。病変の部位などにより、患者さんごとにつなぎ方が異なりますが、すでに確立された方法で行っています。

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縮小手術

 早期胃がんに対しては、切除範囲を小さくしたり、リンパ節郭清を控え目にする縮小手術も行っています。

     ⅰ. 大網温存手術
        大網を残すことで腸の癒着を軽くする。

     ⅱ. 幽門保存胃切除術(PPG)
          胃の出口を残すことで食べ物が小腸に急に流れたり、胆汁が胃の中へ逆流してくるのを
    防止する手術。

     ⅲ. 自律神経温存
         胃切除後の合併症を減らす目的で迷走神経の肝枝と腹腔枝を温存する方法。

     ⅳ. 胃局所切除
          合併症を持っている高齢者などで、早期がんの場合胃を部分切除するのみに留める手術。
 

腹腔鏡下幽門側胃切除術(LDG)、腹腔鏡下胃全摘術(LTG)

 内視鏡下手術の適応から外れる胃がん症例(StageⅠ)については、腹腔鏡下幽門側胃切除を積極的に行っています。この手術は腹腔鏡を用いて、小さな傷で手術を行えるので低侵襲であるといわれています。

抗がん剤治療(化学療法)

 胃がんの抗がん剤治療には手術と組み合わせて行う方法(補助化学療法、術前化学療法、術後化学療法)と、手術ができない場合に行う抗がん剤中心の治療法があります。抗がん剤の効果や副作用は人によって異なるため、両者をよくみながら行う必要があります。

手術できない進行胃がんの化学療法

 転移があって切除できなかった場合や、術後再発してきた場合には抗がん剤治療が行われます。いろいろな抗がん剤、分子標的薬剤、免疫チェックポイント阻害剤が開発され、治療成績は向上しましたが、完治するとこはほとんどなく、現状では治療効果は不十分と言わざるをえません。
 2018年胃がんガイドラインによれば、HER2(-)の場合の一次治療として、S-1+シスプラチン、S-1+オキザリプラチンなど、HER2(+)の場合の一次治療としてカペシタビン+シスプラチン+トラツスズマブ、S-1+シスプラチン+トラスツズマブが推奨され、二次治療としてweeklyパクリタキセル+ラムシルマブ、三次治療としてニボルマブあるいはイリノテカン療法が推奨されるています。

術後補助化学療法

 手術で切除できたと思われる場合でも、目にみえないがんの遺残によって、再発をきたすことがあります。再発を予防する目的で術後補助化学療法が行われます。病期Ⅱ、Ⅲの症例では、術後1年間S-1という経口抗がん剤を内服することで標準治療になっています。その後の臨床試験により、ステージⅢ症例に対するカペシタビン+オキサリプラチン併用療法や、S-1+ドセタキセル併用療法の有用性が明らかになり、推奨されています。

術前化学療法

 手術だけでは再発の可能性が高いと判断された場合に、手術前に化学療法を2-3コース行い、腫瘍を一旦縮小させてから手術を行う方法を術前化学療法といいます。現在はシスプラチン+TS-1(内服)療法を1-3コース行う方法が最も一般的に行われています。 

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最終更新日:2020/07/27